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平静とロマン

平成生まれの大正浪漫18歳

笑う約束

わたしがはじめて自分でお金を貯めて買ったCDは、高橋優の『リアルタイムシンガーソングライター』だった。

シングルもアルバムも出るたびに予約して買って、スピーカーやイヤホンから流れる彼の音楽にたくさんたくさん元気をもらってきた。
そのうち同時期に好きだった世界の終わりに傾いていって追いかけるのはやめてしまったけど、悲しいときや追いつめられたときにCDプレイヤーにセットするのは今でも決まって『リアルタイムシンガーソングライター』だ。


そんな高橋優は、今年の夏にメジャーデビュー5周年を記念してベストをリリースした。
それをひっさげて行われたツアーは、アルバムと同じタイトル『笑う約束』。最後を飾る武道館公演二日間のタイトルは、『笑う武道館』と『約束の武道館』だった。
愚直に笑顔を信じて生きていきたい、なんて歌う高橋優にぴったりだ。

わたしのはじめて行った武道館は、入り口に掲げられた看板に恥じない、たくさんのひとの笑顔で溢れそうな武道館だった。


事前の予習はあえてあまりしていなかった。
おざなりにベストアルバムを聞いて、お気に入りの曲リストをおざなりに更新するよりは、知っている曲が少なくても追いかけていたあの頃のお気に入りを聞けたときのほうが嬉しい気がしたのだ。

指揮者みたいにノリノリで長い弓を振るバイオリン奏者や、明るい緑色のモヒカン頭を目まぐるしく振りながら激しくドラムを打ち鳴らすドラマーの演奏するアップテンポなビートにのせて、明るい歌がつづく前半戦はただただ肩を揺らしてリズムに乗るだけでも楽しかった。

中盤にはいり、最近の曲でも気に入っていた『同じ空の下』を聞いたとき、胸にこみ上げてくるなにかを感じた。

明日がそっぽ向いてても 今日がやるせなくても
この手伸ばして 一歩踏み出して「これだ!」って腹括って決めた
道無き道をどこまでも行こう 何度つまづいても
夢は叶うよ さぁ 歩み続けよう やがて時は満ちてく

人と少し違ったり 少数な方に属したら 蔑まれることも珍しくないよ

でも心配ないよ 腰抜けの戯言
歩みを止めなけりゃ 夢は逃げやしないから

留学から帰ってきて、馴染む間もなく後ろ指を差されて孤立して学校に行けなくなってしまった。
それから周りに散々反対されてキツいことも言われたけれど学校を辞めると決めて、でも大学に行くことを諦めたくなくて勉強を始めた。
そんな近況と重なって、でも未だになんとなく不甲斐ないわたしの背中を押してくれる気がして、彼のがむしゃらな歌声が余計に響いた。

次の曲は、『リアルタイムシンガーソングライター』収録の『靴紐』だった。わたしがつらいときにいつも心の中で口ずさむ一曲だ。彼のストリートライブ時代のはじまりの曲。
スポットライトのなかにぽつんと一人立ち、アコースティックギターをかき鳴らし歌う。

喉元までせり上がってきていたものが溢れて、涙が止まらなくなった。

選んだ道は正しいかな。間違ってばかりいるのかな。いつもいつも不安になるけれど、わたしは前を向いて歩いていくしかないのだ。
この曲を生で聴けてよかった。ライブに来られてよかった。ぐずぐずに泣きながら、がんばろうと心から思えた。

靴紐のあとは、同じようにインディーズ時代からの曲を弾き語りのまま数曲演奏した。そして、再びバンド体制の曲の続く後半へ。多少熱気に圧されて疲れたところはあったけれど、あっという間の時間だった。
本編最後の一曲、『明日はきっといい日になる』を聴きながら本当にいい日になる気がして、自然と口角が上がった。周りと一緒に声を張り上げた。

アンコールの最後に代表曲、『福笑い』の大合唱の余韻が残ったままで、退場の際にもう一度流れた『明日はきっといい日になる』を自然に歌い出すファンたち。
照明がついて、あたりを見回すと本当にみんなが笑顔で楽しそうだった。

高橋優の曲の歌詞を見ていると、どれも前を向いて生きていこうとか笑顔はすばらしいだとか、大筋はどこかで見たことあるようなことばかりだ。

綺麗事だけ並べて、わかったような顔して前を向こうなんて歌わないで!
ほかの歌手が歌っていたらきっとそんなようなことを思うだろう。嫌いな部類のメッセージだ。

だけど、彼の曲が心に響くのはきっと、その率直な歌詞が彼自身の本当の気持ちで、それを荒っぽいと思えるほどのまっすぐな歌声に乗せているからだと思うのだ。

ときに生々しさを感じさせ、現実を突きつける詞に続く飾りのない希望はどれだけ聞いたことのある言葉でも、確かに馬鹿正直な本物だ。

もうすこしだけ、がんばりたいと思えたよ。ありがとうございました。