平静とロマン

平成生まれの大正浪漫

花と銅鑼・GOKURAKU

「面妖」という言葉がすきだ。 ひらがなで書くと、めんよう。丸っこくて捉えどころのない音があやしげで言葉の意味にぴったりだと思う。

そんなあこがれの面妖なお姫さまが率いるバンド、パスピエの武道館公演は異世界のあざやかな幸せの洪水だった。

タイトルは、『GOKURAKU』 辞書で、引いてみる。

極楽

1 《〈梵〉Sukhāvatīの訳》仏語。 阿弥陀仏の浄土。西方十万億土のかなたにあり、広大無辺にして諸事が円満具足し、苦患(くげん)のない、この上なく安楽な世界。浄土教の理想とする仏の国で、念仏を唱えれば、阿弥陀仏の本願力によってこの浄土に往生するという。西方浄土。極楽安養浄土。極楽界。極楽浄土。
2 安楽でなんの心配もない状態や境遇。また、そういう場所。「この世の極楽を味わう」⇔地獄。

アジアを代表する宗教、仏教の最上の世界だ。 「最近ハマってる言葉はご利益です」なんて言いながら東方の神さまみたいな格好をしている大胡田嬢らしいタイトルじゃないだろうか。
デビューから4年、初めての武道館。
バンドにとってすごく特別な公演、節目。

ファンにとっても特別で、とっておきのなにかを期待してしまうけれど、ちっとも裏切られなかった素敵な時間だったと思う。

怪しげな色のレーザーが空気を裂いて客席を照らす中、ステージに当たるスポットライト。キーボードにしたたる汗、せわしげに動く弦の上の指、身体に響くリズミカルなドラム。 高くポップな声がのびやかに会場に響く。

9月にアルバムをお供に決行したツアーの千秋楽である武道館公演だったけれど、新しいアルバムからの曲はあまり多くなかった。 デビューアルバムや以前のアルバムからの人気曲や、大切な曲を少しずつ。 MCをほとんど挟むことなく曲が続く。

ボーカル・大胡田嬢が歌い終え、すうっと舞台裏に消えていった。残された楽器の男性陣はドラムのカウントから一斉に音を弾けさせていく。
エッジィでどこか寂しげなピアノの音から徐々に明るく、にぎやかにうつり変わり、ボーカルの不在を補ってなおキャッチーに盛り上がる。

曲が終わると、背後から光を浴び、新たな衣装をまとったなつき嬢が登場した。

綺麗だけど、すごく卑怯だ。
オーガンジーの、透きとおった布で作られた巫女の上着である白衣が光をキラキラとはね返す。 その変身のためだけに演奏される、夢みたいなBGMを使って、そんな夢みたいな衣装に着替えられてしまったら、ため息をつくしかないだろう。

背後から光を浴びてきらめく彼女の姿を見て膝から崩れそうになった。 くるくると回ったり、ステップを踏むたびにふわふわと揺れる衣装に目を奪われる。
突然現れた銅鑼を思い切りたたき鳴らしたり、数か所に設置されたお立ち台で派手に楽器を演奏してみたり。

おしゃべりなんてほとんど挟まずにテンポよく次々に演奏されていく大好きな曲たちと、ステージ上で紡ぎ出される不思議な世界。

「今日が、きわめてたのしい1日となりますように!」

冒頭に言われた言葉だったけれど、たのしくないわけがなかった。
あっという間だった。 飛んだり跳ねたり叫んだり踊ったり、思い切り心を動かしたりしてものすごくエネルギーを使ったはずだったけれど、疲れを感じる暇はなかった。

花が、ひらいた。
終わった後にパッと頭に浮かんだことばだった。パスピエが鮮明に、はなやかに咲き誇るはじまりの2時間だったと思う。
ありがとうございました。