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平静とロマン

平成生まれの大正浪漫18歳

「おいしくない」の向こう側

クリスマスが終わって、街はあわただしくモミの木をしまって門松を立てる時期になった。

わたしの家はクリスチャンではないけれど、流れに乗っかってそれなりにクリスマスをお祝いするからプレゼントがもらえるし、うきうきしている街を歩くのは楽しいから嫌いじゃない。

もともと人にちょっとしたことで贈り物をするのが好きなタイプだから、クリスマスパーティとか前後のイベントに呼ばれるとすこしはりきってプレゼントを選んだりもする。

嬉しいことに、去年に続いてことしもクリスマスイブの集まりに呼んでもらうことができたのだけど、ことしのパーティは衝撃的な、記憶に残るイベントだった。

開催場所は電車に乗って20分ほどの友達の家。某横浜のオシャレ駅が最寄り駅の、三階建てのすてきなおうちに男女7人で集まって夜ごはんを食べながらクリスマスプレゼント交換をしたり仲良く写真を撮ったりする。

これだけ聞けばすごくいい感じだ。リア充って言葉がピッタリじゃないだろうか。けしからんと思う。

ただ、その「夜ごはん」がすべてをぶち壊す。なんてったってその日のごはんは各自が具材持ち込みの闇鍋だ。

結論から言うと、悪夢だった。 生まれてはじめて本当にまずい料理を食べた。翌日まで胃にピリピリが残った。

まず、ベースはキムチ鍋。市販のタレを買ってきて鍋に入れただけだったから味に間違いはなかった。これは、事前に腹ごしらえで普通にキムチ鍋をしたから実証済みだ。

白菜、湯豆腐、豚肉とエノキを入れてひかえめに鍋をしてから用意してきたものを入れることにした。ある程度食べて満足したあと部屋の照明を落としてから、一旦全員で部屋の外に出た。 順番を決めて一人ずつ鍋に具を加えて出てくる。この時点ではまだ全員ワクワクでにこにこだ。
「ねえねえ何持ってきたのー」なんていいながら小突きあったりしていた。

最初の一人が投入を終えて出てきた瞬間、全員の顔が曇った。 ドアが開いたとたん、あきらかに異臭がした。

首をかしげながら、二人目が入っていく。すると、ドアの向こうから聞こえる笑い声。なにかがおかしい。 三人目は悲鳴をあげた。どうしようどうしようどうしよう!小声で言いながら、泣きそうになっていた。

ジャンケンで勝ったわたしの投入は最後だった。一人であきらかに怪しげなにおいを放つ鍋のふたを開ける。
そのときのわたしは、冗談抜きで目が点になっていたと思う。
半笑いで持参したブツを入れて、ふたを閉めてから外で待っている彼らに声をかけた。

全員揃って、真っ暗なまま鍋を開ける。で、出てきたのがこれだ。

この写真は友だちの一人が撮ったもので、わたしはそのときこれほど鮮明には見えなかったけれどとにかくメロンパンと肉まんは見えた。
メロンパンだけは絶対、当たりたくない。「わたしにだけは回ってきませんように」とこっそり祈った。

目を閉じたまま一人一人鍋におたまを入れて、最初に触ったものを取って行った。よく見えないから不安だったがなんとか全員小皿に取り分をよそった。

「いただきます」
どきどきしながら手を合わせ、一斉に食べはじめる。わたしは、最初にもちっとしたものに当たった。 かすかな甘みを感じて嫌な予感がしたが、ただのまるい鍋団子だった。これは当たりだ!ほっとしたが、器に箸を入れると他の具はないのにどろっとしてげんなりした。

「え、え、なにこれ、くにくにするよなにこれこわい!」「辛くね⁉︎これ辛いよ‼︎」「ウボエエッ」

周りはまさに阿鼻叫喚という感じだった。手元が見えなくて食べづらいので、鍋にふたをして一度電気をつけた。

どろっとしたものの正体は、汁に溶けた小麦粉のなにかだった。一杯目は空にするルールだったから仕方なく口をつける。地獄を見た。 謎の甘みが加わったキムチの汁によくわかんないけどほんのり甘い生地が溶けて甘いのに辛くて食感がどろどろしていた。慌ててお茶でのどに流し込んだ。

もう一周してから各自ネタばらしをしたが、なんというかひたすら悪夢だった。溶けた小麦粉のなにかは、たべっこどうぶつとメロンパンのかけら。汁の甘みは、プリン。
まともな具は鍋団子とキムチくらいだった。 カットフルーツ盛り合わせ、からあげクン、いかのちょっと辛い駄菓子、肉まんとカットされていないこんにゃくまるまる一個、オランダせんべい。それにわたしが持って行ったナタデココと干し梅に花麩。

なにが入っているのを知ってから余計に怖くなって、結局全員、甘ったるいキムチ汁を飲みきれずギブアップした。
自分が当たった具の感想を言い合っていると、個人の味覚の差が顕著になって面白かった。フルーツが一番マシだという人もいれば絶対にフルーツだけは無理という意見もあった。
おかげさまで絶不評だったナタデココは汁を吸ってしまったせいで一噛み目に不思議な食感と一緒に絶望的な甘みがやってきたが、それを適当に受け流せれば案外普通だった。
一番ひどそうだったメロンパンも、皮が厚いから中は無事で、思ったほどひどくなかった。
「普通」と言ってもまずい、食べられない、体が受け付けないの三段階に分けると食べられないと体が受け付けないの間くらいだったからあとは察してほしい。

「なんでクリスマスイブに集まって闇鍋なんかしてるんだよ……」
まったくその通りで涙が出そうになった。二度と闇鍋なんかするもんか、本気で思った。