魔法使いになれるとき
ため息をつくと幸せが逃げてしまうと言うから、ため息はティーカップに注いだ紅茶を冷ます息と一緒に湯気に溶かしてしまうことにして、今日はたのしい話をしましょう。
そうね、たとえばお菓子のおはなし。
わたしは甘いものがとてもとても好きで、からいものと、すっぱいものと、苦いものと甘いものとを並べられたらおそらく甘いものを手にとる。
すっぱいものも苦いものも嫌いではなくて、からいものもからすぎなければ好ましいけれど、どれか一つだけ選んでいいよ、と言われたらそのときはきっと甘いものを選ぶ。
最近よく考えているのは、お砂糖と小麦粉をたっぷり使った洋菓子のこと。
雪のような白いアイシングの上にあざやかなピスタチオがぱらぱら乗ったウィークエンドシトロンとか(わたしの好物)、こまかーい装飾が表面にほどこされたアイシングクッキーとか、洋酒が効いていて口に運ぶたびにフルーツがこぼれるようなパウンドケーキとか、そんな感じ。
お菓子は食べるのも好きだけれど、つくっている時間のほうが好きかもしれない。
できあがるお菓子のこととか、食べてくれるひとのことだけを考えていられるから。手を動かしながら次の工程を考えて準備をしていたら、いつも気にしているような余計なことはぜんぶ考えなくてすむし、ほかのことで悩む余裕なんてない。
型に注いだり、オーブンペーパーのうえに絞ったりした生地を予熱の済んだ熱いオーブンに入れたら、そわそわしてリビングとキッチンを行ったりきたりしながらできあがりを待つ。
小麦の焼ける甘い香りがふわりと漂ってくるころになると待ち遠しくて、10分くらいずっとオーブンの中を眺めてしまうこともある。
わたしは料理はあまり得意ではないけれど、お菓子作りはとても好きだ。レシピの手順と分量をしっかり守って、使うオーブンのくせをちゃんと把握していればレシピが間違っていない限りおいしいお菓子がたしかにできあがる。
ああ、お菓子を作りたくなってきた。