平静とロマン

平成生まれの大正浪漫

バッハの旋律を夜に聴いたら息が苦しい

知人に、馬場さんという男性がいる。
授業を通して知り合ったひとつ上の大学の先輩だが、一歳しか離れていないとは思えないほど深く豊かな知識を持っている憧れる人のひとりである。

話は変わるが、先日高田馬場で友人と遊んだあとあまりに運動不足かつお金がないので新宿まで歩いたら楽しかったのでさらに足を伸ばして渋谷まで歩いた。

代々木と原宿の間とイトキンビルを歩いていたあたりで、ふとサカナクションのフロントマン山口一郎さんがInstagramに写真をあげていたかっこいい香水ブランドの店舗が原宿にあることを思い出し、立ち寄ることにした。

retaWという日本発のブランドで、海外スーパーの冷凍品売り場のような無機質な大きなドアの中に製品が並べられたディスプレイが非常にクールだった。

テスターを嗅いだところALLEYという名前の香りがまさにイメージしていた清潔感とミステリアスさとあたたかみの共存した何度でも嗅ぎたくなるような香りで、お金がないにもかかわらずコンタクトのような容器に入った使い切りのクリームタイプの香水を迷わず購入した。


この香りが似合う女性になりたい。
全身から漂わせたいし包まれながら暮らしたい。
テスターをつけてもらった手首の内側を鼻に近づけてくんくんしながら歩き続けた。

家に帰って、まずはすてきな香りにふさわしいすてきな部屋にしようと散らかしっぱなしにしていた部屋の大お片づけ大会を始めた。


幼い頃からお片づけがあまりにも苦手なわたしは、気をぬくとすぐに目の前の惨状にどう立ち向かったらいいのかわからなくなり立ち尽くしてしまう。スマホをいじり始めたり、発掘したなつかしい本を読み始めて片付けを辞めたら終わりである。
そのような悲劇を避けるため、Bluetoothスピーカーに繋いで大きな音でノれる音楽を流すことにしているのだが、今回はサカナクションを選んだ。

基本的にダンスがものすごく下手で抵抗のあるわたしだが、堪えきれずに踊りながらテンポよく片付けを進めていた。

『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』を聴きながら、富士山に登ったときに前述の馬場さんがサカナクションに言及していたことを思い出した。
彼は、わたしではちょっと名前すら覚えていられないような思想家や批評家の本をよく読み、クラシックを聴いて恍惚とする男性である。

サカナクションなんて現世のポップミュージック(語弊があるかもしれない)は知らないはずだった馬場さんがサカナクションを知っていてたいへん驚いたのだが、どこかのコミュニティで彼がお酒を飲むときのコールが「バッバの旋律を夜に聴いたせいです」であるらしく、その元ネタとして知っているようだった。

バッバ……と不思議な気持ちになりながら好きな音楽を聴き踊りながら片付けを進めたが、結局その日のうちには終わらずキリのいいところで寝たら深夜に息ができなくなるほどの喘息の発作に見舞われ、あまりに苦しいので何度も起き上がり最終的にはリビングに避難することにした。

ハウスダストアレルギーかつ気管支が弱いわたしには、踊りながらの片付けは埃が立ちすぎて良くなかったのかもしれない。

うまく呼吸ができないので午前中は寝ながらぼんやり過ごしていたが、昼過ぎから徐々に回復したのでマスクをしながら片付けを再開したものの数分で皮膚が痒くなったりくしゃみが出たりし、やはり気管支に違和感が出はじめたので家族の寝室に緊急避難しこの文章を書いている。

いい香りの似合うすてきな女性、すてきな女性の暮らすすてきな部屋への道のりは遠い。


※この記事が馬場さんご本人の目に入ってしまった場合、すみやかにかぱぱみまでご一報ください。しかるべき対処をいたします。