平静とロマン

平成生まれの大正浪漫

「父が逮捕されました」


文部科学大臣賞を取った、中学二年生の子が書いた作文の要約を読んだ。
叔母の市長選出馬をサポートした父が公職選挙法に違反し、捕まってしまうという内容だ。

こういう文章を書けば文部科学大臣賞が取れるのか。正直意外だった。
要約だからどこまで彼女自身が作文に書いた言葉かはわからないけど、いくつかの表現が、読んでいて不協和音の仲間はずれの音みたいにざらざらとした違和感を残したからだ。

ひとつは、「門扉」とか「夕刻」みたいな二字熟語。
ふだんはもっと易しい言葉を使うところを、あえて日常生活ではあまりなじみのない言葉に置きかえているところ。

もう一つはたとえのつかいかた。
これはきっと原稿用紙80枚、約3万2000字をぎゅっと詰められてしまったことが原因だと思うけれど、現実的な話のなかで突然出てくる船や祭りのたとえは唐突に感じて、ん?となった。

わたしは、文章の全体のバランスに敏感なところがある。
漢字とひらがなの使い分けにはすごく気をつかうし、前後何文かで同じ言葉を何回をつかうことはできるだけ避けることにしている。

自分自身が頭のなかで考えているときに出てこないような難しい単語は文章でも書かない。知識として持っていて意味を理解していることばでも、実際に文章のなかに組み入れてみると自分自身になじんでいないから、読みかえすとなんとなく目立ってしまう。

いまでこそきれいな読みやすい文章を書くために気をつけていることになっているけれど、もともとはただただ考えたまま話しているだけなのに学校で、「あの子は難しい言葉や古くさい言葉を使うからムカつく、インテリぶってる中二病」なんて叩かれた数年前に生まれたこだわりだったりする。

受賞した彼女の作文に違和感を感じたのも、このあたりの自分のなかのしこりが原因なのだと思う。
わたしは中高生にふさわしくないような難しい単語や表現をつかっていじめられたのに彼女は文部科学大臣賞なんて取っちゃって、大人に才能を認められて、満場一致の最高得点で受賞なんてずるい。

批判の姿勢になりかけて、あらためて要約の載った記事を読みなおした。
一度目は背のびした単語と仰々しいたとえに目がいってしまってわからなかったけれど、読み返してみると全体としてはおおむね淡々と事実を伝える文章だ。
おそらく状況の描写と人物の行動の描写のバランスや取捨選択もうまい。

悔しいけど、彼女の書いた作文全文を、読んでみたいと思った。

父親公職選挙法違反による逮捕なんてあまりにも衝撃的かつ貴重なテーマで、こんなの文章がどうであれ一回読んだら忘れられないし、わたしもこんな状況遭遇して一筆取らせていただきたいわ!と思ったけれど、事実をありのままに表現する力はうらやましい。

3月に単行本、それよりもすこし早くに電子書籍が出る予定のようなので刊行されたら一度目を通してみようと思う。